事例紹介|東京 「会えてよかった」<インタビュー>

今回ご紹介するのは石巻から東京へ仮り住まいされた安藤さん(仮名、60代女性。夫70代)のケースです。
※写真は全て、安藤さんご自身が2011年5月に被災地を訪れた際に撮影されたものです。

■石巻から東京へ
夫はもともと生まれも育ちも東京。4年前にリタイアし、長年暮らした東京から妻の郷里である石巻へ夫婦で移住した。夫の好きな釣りを楽しむつもりだったという。
日和山の自宅は高台のため津波の被害に遭わずに済んだが、眼下の街はすべて流された。
3月20日、東京で暮らしていた娘夫婦の自宅へ身を寄せた後、仮り住まいの輪を通じて方南町(杉並区)のワンルームマンションに夫婦で入居した。

 

■半壊の自宅から、車での移動生活へ
地震の直後、自宅周辺では何日にもわたって火事が続いていたという。電気の復旧しない中、夜になれば火事の炎が明かり代わりだった。
半壊した自宅には、支援物資が届かなかった。安藤さんたち

の手元にあったのはお米、カップラーメンなどわずかなレトルト食品、ガスボンベ4本。朝おかゆをつくり、一日3回に分け少しずつ食べる。いつまで食べるものが続くかも分からない。おいしいものは食べずになるべく後に残し、お腹が空くのでなるべく動かないようにしていた。
井戸水を汲んできて下着を洗濯し、夜は暖房も明かりもつかない部屋で身を寄せ合って眠った。雪が降り続けていた。
4日目頃に野菜を持って訪ねてきてくれた友人は「絶対に外に出ちゃダメだよ」と厳しく言って帰った。ATMや自動販売機を壊してお金を取る人が出るなど治安は悪化し、街には瓦礫だけでなく遺体も多く残されていた。安藤さんたちがショックを受けることを心配しての言葉だった。

5日目には、倒壊の恐れのある自宅から退去するよう勧告を受け、毛布や書類、身の回りの物だけを持って車に乗り込んだ。3日間ぐるぐる走り回り、夜も車の中で眠る。地震から一週間が経とうという頃、携帯電話が通じるようになり、東京にいる娘とようやく連絡が取れた。

仙台へバスが通うようになるのを待って、リュックサックだけを背負い仙台経由で山形へ。山形空港から羽田への航空券はもちろん、避難ルートも東京から娘さんが指示した。
空港のレストランで食べた肉うどんが忘れられないと言う。「こんなに美味しいものかと」。つゆまで飲み干した。

羽田空港で娘が待っていた。周囲の人たちからは「娘さんのためにも、東京にいてほしい」と言われた。安藤さん夫婦の消息が分からない一週間の間、娘さんの心配は如何ばかりだったろう。

 

■仮り住まいの輪を通じた出会い
いったんは娘夫婦の自宅マンションに身を寄せ、「すっごくホッとした」と言うが、そこで長く暮らすことは最初から考えていなかった。娘は早くから実家を出て自立するように育て、嫁いだ今となっては家庭も別。「そんなに迷惑はかけられない」と考えていたからだ。ときには今後のことを考えたり頭を整理したりするため娘宅を離れ、ホテルに外泊することもあった。
娘と夫が近隣地域の都営住宅などを中心に移転先を探している中で、仮り住まいの輪に出会った。方南町という地名を聞いて、安藤さん(妻)自身は短大時代、東中野で暮らしたことがあった。あの辺りならば土地勘もあるし友人たちも住んでいる。気持ちは動いたが、最初は提供者が「何故こんなことをなさるのか」想像もつかなかったと言う。「タダより高い物はない」という言葉もよぎったが、提供者と直接やり取りをした娘から「ちゃんとした人だから大丈夫」と太鼓判を押された。

 

■帰りたい気持ちと帰れない気持ちのはざまで
5月、20平米程のワンルームに夫と二人で移り住んだ。家具家電は日赤から提供されたももの。
当初、夫は「石巻に帰りたい」と言っていたが、お盆に一時帰ることを提案すると「海を見たくない」と言った。安藤さん自身も複雑な気持ちだ。生まれ育った街に帰りたい気持ちはもちろんあるが、子どもの頃暮らした場所は地域ごと流されてしまった。
夫は持病があるが、かかりつけのお医者さんが津波で亡くなり、 石巻に帰っても治療が受けられないという事情もある。
一方、石巻の知人からは「帰ってこなくていいからね」と言われたという。その真意は聞けなかったが、安藤さん夫婦はこれから東京で暮らしていくことも考えている。

住み始めて数ヶ月経った頃、提供者の森さん(仮名)と対面した。立ち話だったが、実際に会って直接感謝を伝えることができ、とても嬉しかったと言う。

「お世話になっているのに顔も知らないというのが心苦しくて。お会いする前の晩はドキドキして眠れなくなるくらいでした。
(会ってみて)目がすごく優しくて。この人だったら少し甘えてもいいかな、と思えたんです。森さんにお会いできて本当によかった。これからもこのご縁を大切にしていきたい」
(安藤さん)

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2011年3月11日から1年が経ちました。
仮り住まいの輪活動レポートでは、昨年取材したケースをいくつかご紹介していきたいと思います。
この1年間を振り返り、これからを考えるために、 役立てて頂ければ幸いです。

 

(取材・文/石神夏希)

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